過去公演

番外公演【vital signs】
企画公演『学生版日本の問題』参加作品
2011年12月21日(水)〜25日(日) @渋谷Gallery LE DECO4
作・演出:酒井一途
出演:朝戸佑飛 / 鈴木由里 / 有吉宣人 / 炭田桃子

 ――ねえ、生きている証って何だと思う?



■ 序文
死の蔓延する世の中である。テレビを付ければ、やれ殺人事件だ、やれ有名人の自殺だと毎日毎日騒いでいる。テロで何人死んだ、地震で何人死んだと幾ら数値を見せられたところで、そこに一切の「死」の実感は伴わない。であるから、我々の感覚がおかしくなるのも無理ないことだ。何がおかしくなったのかと言えば、それはもちろん我々の「死」の感覚のことを指す。

ここでハッキリと言っておこう。世に蔓延する死は、死であって「死」ではない。鉤括弧付きの「死」とは、ごく個人的な「私自身の死」のことを意味する。或いは自身の身が抓まれるような「愛する者の死」と置き換えてもいいだろう。これら「死」は誰しもに訪れるもので、決して避けることは叶わない。しかしそのことを直視できている者がいかほどにいるか。

我々に必要なのは「死」をこそ見つめる行為である。「死」を凝視することによって、精神の「生」が高められる。それでこそ自己は本来性の自己に回帰できる。なぜなら「死」だけは紛れもなく私固有のものと言えるからだ。なれば思考を逆転させよ。「死」を確かに覚悟することにおいてのみ「生」の安楽は訪れる。例えそこが手に届かぬ到達点であっても、求め続けるしかないのである。

(「死」を見つめ続けてみても、「死」を覚悟しきることなどできはしない。つまり「生」の安楽など我が身に訪れることはない。生きることは常に辛く苦しいものである。しかし耐えなければ。「死」に対する覚悟を問い続けなければ。今、我々は生きているのだから)

                                     作・演出 酒井一途



■ ごあいさつ(当日パンフレットより抜粋)
脚本の初稿を書いて後々調べてみると、どうやらハイデガーの言う「死の自覚」が今回の作品内容と相当するらしいことがわかった。不学ゆえ哲学書などろくに読みもしないのだが、『存在と時間』は自身の思索を深めるためにも読んでおくことの必要性を感じる。

ともあれ「死」に対し問題意識を抱いて書いた『vital signs』であるが、果たして「日本の」との制限の括りの中で機能するかということが企画にとって重要なわけだ。

僕は機能すると答えたい。現代日本を見つめたことで生じた問題が「死」であったという紛れもない事実があり、また意図せず散りばめられた要素は震災の影響色濃いものであったのだから。いかに見るかは観客の皆さまの視点に任せたい。


■ お客さまの声
「生と死」を凝視することに徹し、余計な一切の「解説」を入れなかった点がすごい。純文学的でありながら、リリカルな味わいもあった。
(CoRich舞台芸術!ミドル英二様のご感想)

主人公の思い詰めたような一直線さ、一途さが、若さ故の行動と発言であり、その奥にいる、作者の気持ち・考えが顔を出してくる。そこがスリリングであり、緊張感が生まれてくる。
そんな、「良くも悪くも」「生真面目な」アプローチと意識が、ミームの心臓であり、だからこそ、この劇団を続けて観ていきたいと思うのではないだろうか。
(CoRich舞台芸術!アキラ様のご感想)

原発事故の避難区域にある家という設定が現在の社会状況を反映しているが、描かれているのは「なぜ生きるのか」という激しい問いかけと、それに対して誠実で有効な答を出そうと苦しむ人の姿である。
作り手の真剣そのものの姿勢が一瞬の緩みもなく登場人物の台詞になって発せられる。観客に受けよう、笑わせようという作為やおもねりが微塵もないのはほんとうに立派だ。
(Blog"因幡屋ぶろぐ"より、因幡屋様のご感想)

凄く個人的にいつも思ってる事ばかり出て来て辛かった。僕は記憶にしか存在しないものについて本当によく考える。大事な人の存在の証明や時間に関する事や記憶。
(twitter@TOKOROyukiより、写真家・所幸則氏のご感想)


■ キャスト
 朝戸佑飛
 鈴木由里
 有吉宣人
 炭田桃子
 ※出演を予定しておりました中田暁良は体調不良により公演を降板しました。代役として朝戸佑飛が出演いたします。


■ 公演写真
クリックすると、大きな画像で表示されます。
撮影:林亮太さん

撮影:笠井浩司さん




企画公演【学生版日本の問題】概要

■ 序文
なぜ「日本の」と問題を括ってしまうのか疑問に思った。どうやら僕は国単位での価値判断の付け方が好きじゃないらしい。歴史が証明してきたように、愛国心には全体主義へと派生する危険性があるからとの考えもあるのだが(全体主義は何より忌み嫌うべきものだ)、それ以上に「国」という単位が僕自身にとって大きすぎるからというのが正直なところだろう。

東京生まれ東京育ちの僕は、日本全体に対して全くと言っていいほど身近さを感じることがない。僕が親近感を持てるのは、住み慣れた東京というごく狭い一区画にしかすぎないのである。祖父母や親戚が地方にいるだけでも、日本の捉え方は異なるだろう。海外に数ヶ月住んでみるだけでも、日本の見え方は変わってくるだろう。しかし今の僕の視野で日本全体を意識してみても、至極曖昧なぼんやりとした像が見えてくるばかり。日本に生きてはいるものの、悲しきかな日本の姿は見えぬ。「日本の問題」もまた遠い存在だ。では、どうだろう。一つ問題をマクロに見てみたら、とある疑問が提示されてくる。はて、僕たちは地球に生きてはいるものの、本当に地球の姿が見えているのか? 「地球の問題」に実感は湧いているのか?

要は物事を思考するにおいて、境界線をどこで区切るかなのだ。狭めすぎれば視野は窮屈になるし、広げすぎれば全ての要素を介入させる必要性が生じてくる。最もミニマムなものは「私の問題」であろう。今ここに生きている私個人の問題が、一番直接的でリアリティを感じさせる。少し広げれば「家庭の問題」や「職場、学校の問題」が出てくるし、「東京の問題」だって挙げられる。さらに「日本の問題」を超えて広げれてみれば「アジアの問題」であったり「地球の問題」が存在する。問題が大きくなればなるほど、白黒付け難い矛盾した問題をも孕み、僕たちの識見の範疇を飛び越える。

だからこそ今回この「日本の問題」という、僕にとっては非常に大きな区切りでの題材に、あえて立ち向かってみようと思った。日本の姿が曖昧であるのなら、明確にしてやらねばならない。いつまでも問題を誤魔化していてはいけないのだ。視野を広げなければ。小劇場版8劇団、学生版6劇団の計14劇団が集い、各々日本の問題について突き詰めた作品が上演されるとなれば、「日本の問題」の体系がある程度明らかになるはずと、僕は希望を持っている。その後いかに行動するかは、一人一人が思考すべき問題である。
                               学生版日本の問題主催 酒井一途


■ 企画でのごあいさつ(当日パンフレットより抜粋)
『学生版日本の問題』へのご来場、誠にありがとうございます。『学生版』では、小劇場演劇界における有名無名を問わず確かな才能と実力を有し、今後次代を担っていく強い意志のある学生劇団を選び、参加団体としました。

私たちは「ゆとり教育」で育てられてきた世代ではありますが、与えられた生温い環境に満足せず自らの主体性でもって新たに世界を切り拓かんとする学生が確かに存在しています。その萌芽が今、「日本の問題」を上演するという意欲を皆さまに見届けていただきたいと切に願います。

どの日程でも、一日でA班とB班の両方を観劇できるように設定してあります。どうせですからぜひ六劇団すべて観ていただきたいです。「どの劇団もカラーが違うから」なんて当たり前なことではなく、「僕自身がどの劇団もお勧めだから」という純粋で単純な理由からです。観て損はさせません、そう断言できます。

そして学生の持つ若々しくも鋭い感性で描かれた「日本の問題」を見つめ直した時、観客のみなさまの側にもまた新たな視点がもたらされることではないか、と大きな期待を抱いています。作品を観終えた際には、ぜひ批評精神でもって作品について、扱われている日本の問題について、ネット上などで語り合うことができましたら、これほど嬉しいことはありません。


■ 参加団体(五十音順)
 荒川チョモランマ(早稲田大学)
 思出横丁(桜美林大学)
 劇団けったマシーン(青山学院大学)
 声を出すと気持ちいいの会(明治大学)
 ミームの心臓(慶應義塾大学)
 四次元ボックス(日本大学藝術学部)


■ タイムスケジュール

 ※Aは次の3劇団が公演します。声を出すと気持ちいいの会、ミームの心臓、四次元ボックス
 ※Bは次の3劇団が公演します。荒川チョモランマ、思出横丁、劇団けったマシーン
 ※劇団の公演順については未定です。
 ※最終日の12月25日は、6劇団連続での公演です。


■ チケット
 予約前売券1800円/当日券2000円
 学生割引(要学生証提示):1500円
 学生版A+Bグループのセット券:3000円
 大人版(8劇団)と学生版(6劇団)のセット券:9000円
 ※各割引チケットはすべて事前予約が必要となります。


■ スタッフ
 プロデューサー:松枝佳紀 / 学生版プロデューサー:酒井一途
 照明:山本創太(声を出すと気持ちいいの会)
 宣伝写真:所幸則
 宣伝美術:ナカヤマミチコ
 Printing Direction:青山功
 企画・製作:日本の問題制作部

《ミームの心臓『vital signs』専任スタッフ》
 音楽:酒本信太


■ワークショップ/オーディション(終了)
 すでに小劇場にて活躍している劇団、学内公演で異色の才覚を発揮している劇団など、
 まったく毛色の違う学生劇団6団体の主宰による合同ワークショップを開催いたします。

 日程:2011年10月14日(金)~16日(日) 全6回(各回入れ替え制)
 場所:都内某所 参加者にのみお伝えいたします
 定員:12名前後/回
 参加費用:場所代として500円/回